DETAIL
冬将軍MASS-HOLE、自身初の夏ミックス。彼の想う夏は暮れゆく夏。浮遊感漂う流れるプールミックス。ミックスのタイトルは「BANKA (晩夏)」。悲しく儚い夏の幻影がサイケデリアに浮かび上がっては消え、得も言われぬ浮遊感を味わえる。ここにやまだかつてないMIXがひとつ完成した。終わりゆく夏への敬意をこめた挽歌である。mass-holeにも夏はくる。
「海のない街から来ました―」
2025年8月某日、都内某所のライブ会場にて、mass-holeはMCでスピットした。
彼の住む町、信州松本はアルプス山脈を望む空気の澄んだ水の綺麗な街。冬に降る雪は空気中の浮遊物を排除し、そこで吸い込む空気は格別である。
中心街には商業ビルやライブハウス、個人経営のレコード屋。飲み屋街に粋な居酒屋や城下町があり、自然と街が一体となった景観にティンバーのブーツ、オーバーサイズのダウンジャケット、そして吐き出す白い息がとてもよく似合う。
“WINTOWN”。ウインタータウンとはよくぞ言ったもので松本市の冬の景色や空気感はmass-holeのアイデンティティそのもの。ラップやビートにもそれらの影響が色濃く反映されている。
夏になる度に無理を承知でmass-holeに夏仕様のミックスを制作してくれとお願いしてきた。
御大TEE-$HORT氏のおかげでミッドナイトミールのカタログに夏は欠かせない季節となっている。
冬将軍mass-holeがどんな夏ミックスを制作するか興味本位でのお願いである。
夏といえば真っ先に思い出される要素のひとつが“海”であろう。ここで冒頭の発言に戻るのである。
彼は知らない。島々の間を東からレーザービームのように照らしてくる朝日を。エイジングされたかのように錆びついた自転車や車を。
ベタつく肌の潮の香りを。遠く微かに鳴る汽笛の音を。打ち寄せる波の恐怖と引く波の優しさ、渦潮の雄々しさを。夜にきらめく夜光虫を。日が落ちるとどこからともなくあらわれる漁火を。そして、水平線に消える魔法のような夕日を。彼は知らない。
mass-holeにも夏はくる。きっと夏はくる。毎年、 記録を更新する極暑は各地の避暑地にも容赦ない。シティポップで奏でられるような夏はいまや幻。mass-holeは遂に重い尻を上げ夏と向き合ったのである。彼が思い描く夏は暮れゆく夏。
このミックスに海はないが蚊取り線香の香り。蚊の飛ぶ羽音。枯れたセミの鳴き声。川で遊ぶ家族の笑い声が聞こえてくるようだ。ミックスのタイトルは“banka”(晩夏)。悲しく儚い夏の幻影がサイケデリアに浮かび上がっては消え、得も言われぬ浮遊感を味わえる。ここにやまだかつてないMIXがひとつ完成した。
終わりゆく夏への敬意をこめた挽歌である。
(by SUPER D)